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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)779号 判決

第七四三号事件控訴人・第七七九号事件被控訴人

(以下「第一審原告」という。)

宗教法人大宝寺

右代表者

篠田智博

右訴訟代理人

野村千足

野村昌彦

第七四三号事件被控訴人・第七七九号事件控訴人

(以下「第一審被告」という。)

竹内潔

右訴訟代理人

中村敏夫

山近道宣

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

第一審原告が第一審被告に賃貸している原判決添付物件目録記載の土地の賃料は、昭和四七年七月一日以降一か月二万四三七二円(3.3平方メートル当り一か月九〇円)であることを確定する。

第一審原告のその余の請求を棄却する。

二  第一審被告の控訴を棄却する。

三  訴訟費用は第一・二審を通じてこれを三分し、その二を第一審原告の、その余を第一審被告の各負担とする。

事実《省略》

理由

一第一審原告主張の請求原因一ないし五の事実、更に第一審原告が、昭和四七年六月八日到達の書面をもつて第一審被告に対し、本件賃借地の賃料額が不相当であるとして、その改定期にあたる同年七月一日以降3.3平方メートル当り一か月一三〇円に増額する旨の意思表示をした事実は、いずれも当事者間に争いがない。

そこで、右賃料増額請求の当否について判断する。

〈証拠〉によれば、本件土地に対する昭和四二年度の評価額は八一八万六六一〇円、同年度の固定資産税及び都市計画税の合計額は四万四六六〇円であることが認められ、一方同土地に対する昭和四七年度の評価額が一三八〇万四八八二円であることは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、同年度の固定資産税及び都市計画税の合計額は一三万八八七〇円であることが認められるから、昭和四七年度は、評価額において昭和四二年度の約1.69倍、固定資産税及び都市計画税の合計額において昭和四二年度の約3.11倍となつており、かような本件土地についての評価額の昂騰、固定資産税及び都市計画税の増額の実情からすると、昭和四二年七月一日に改定された本件賃借地の賃料額(3.3平方メートル当り一か月二三円)はもはや著しく不相当になつたというべく、従つて、第一審原告の前記賃料増額請求は理由があるものといわなければならない。

そして、前記認定の本件土地についての評価額の昂騰、固定資産税及び都市計画税の増額の度合のほか、〈証拠〉によれば、本件賃借地についての昭和四七年七月一日以降の賃料は3.3平方メートル当り一か月九〇円が相当であるとされていること、〈証拠〉によれば、訴外川井三郎及び福井良之助は、第一審被告と同様に、第一審原告の境内地である本件賃借地付近の土地を賃借しているところ、昭和四八年四月一日以降の賃料が一か月3.3平方メートル当り川井について一一〇円、福井について一三〇円にそれぞれ増額されたことが認められること、本件賃貸借契約にあたつては、賃料改定後五年間は賃料を増額しない旨の特約があること、これら諸般の事情を総合して考察すると、本件賃借地の昭和四七年七月一日以降の賃料は、3.3平方メートル当り一か月九〇円、従つて総面積895.25平方メートルについて一か月二万四四一六円に増額されたものと認めるのが相当である。

二ところが、第一審原告が、昭和四八年一一月一五日到達の書面をもつて第一審被告に対し、本件賃貸借契約における五年間賃料を増額しない旨の特約条項を解除したうえ、同年一二月一日以降賃料を3.3平方メートル当り一か月一六三円に増額する旨の意思表示をしたこと、更に第一審原告は昭和五〇年五月二八日付訴状訂正追加申立書により同日以降賃料を3.3平方メートル当り一か月一一三円に増額する旨の意思表示をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

そこで、右特約条項解除の効力及び右賃料増額請求の当否について判断する。

土地賃貸借契約において、一定期間賃料を増額しない旨の特約が付されていても、急激、かつ、著しい経済情勢の変動等によつで賃料が公租公課にも及ばないような事態を生じ、所定の期間内における賃料の増額を許さないことが賃貸人に対して余りにも酷であり、賃貸借関係における衡平と信義則に反すると認められる場合には、賃貸人から一方的にその特約を解除したうえ、直ちに賃料の増額を請求することができるものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、既述のとおり、第一審原告は前記特約に基づき賃料改定期である昭和四七年七月一日以降の賃料の増額を請求していたものであつて、次の賃料改定期は同五二年七月一日であるべきところ、第一審原告が同四八年一一月一五日前記特約を解除し、同年一二月一日以降の賃料の増額を求めるというのであるから、そのためには、同年一一月一五日の時点において、第一審原告が次の賃料改定期をまたずに直ちに賃料の改定をすべき特別の事情があることを要するものというべきである。

ところで、本件土地の評価額が、昭和四七年度一三八〇万四八八二円、同四八年度二七六〇万九七六四円であることは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、本件土地に対する固定資産税及び都市計画税の合計額は、昭和四七年度一三八八七〇円、同四八年度二〇万一六五〇円であることが認められるから、昭和四八年度の土地評価額は同四七年度分の二倍、昭和四八年度の固定資産税及び都市計画税の合計額は同四七年度分の1.45倍であつて、その間に急激な経済情勢の変動があつたということができるであろう。しかしながら、本件賃借地の面積は本件土地の六割弱であるところ、さきに確定された本件賃借地の昭和四七年七月一日以降の賃料は一か月二万四四一六円、年額にして二九万二九九二円であつて、本件土地に対する前記昭和四八年度の固定資産税及び都市計画税の合計額二〇万一六五〇円を超えることが明らかであるから、昭和四八年一一月一五日の時点において、直ちに前記特約を解除したうえ賃料を増額すべき必要性は認めがたいし、他にその必要性を肯定すべき特別の事情を認めるに足りる資料はない。ちなみに、〈証拠〉によれば、本件土地に対する昭和五一年度の固定資産税及び都市計画税の合計額ですら二八万七一七〇円にすぎないこと認められる。

以上のような次第であるから、第一審原告が第一審被告に対してした前記特約解除の意思表示はその効力を生ずるに由なく、従つで第一審原告の第一審被告に対する昭和四八年一二月一日以降及び同五〇年五月二八日以降の賃料増額請求は理由がないものといわなければならない。

三よつて、第一審原告の本訴請求は、本件賃借地の賃料をその申立の範囲内である昭和四七年七月一日以降一か月二万四三七二円であることの確定を求める限度で正当であり、その余の請求は失当というべきであるから、同賃料を同年七月一日以降一か月二万〇三一〇円と確定し、その余の請求を棄却した原判決を右のとおり変更し、第一審被告の控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九五条、第九六条、第八九条、第九二条を適用し、主文のとおり判決する。

(枡田文郎 齋藤次郎 山田忠治)

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